在仏日本人会、「相続」についてのセミナー 2023年5月12日(オンライン)
財産と夫婦財産法について(共同財産制か、別財産制、どちらが適応されるか)
被相続人の財産を定めるために、既婚者であれば、まず夫婦財産制(régime matrimonial) をチェックする必要がある。
1 『離婚』を切り出された、まずどうするか?
フランスでは、3組に1組は離婚する時代となり、パリでは2組に1組のカップルが離婚するという統計も出ています。
それに輪をかけて、『コロナ離婚』という言葉も流行るほど、コロナ禍明けに、離婚するカップル、また、離婚相談が増加したとメディアで騒がれています。
その中で、日仏カップルは離婚率が高いとは聞きますが、実際、はっきりした統計は出ていないため、わかりません。
確かに、離婚は多くの人が直面する人生の中での苦難の一つと言えます。
とはいえ、離婚に当たって、準備するということは難しく、全く予期せず、離婚を相手から切り出された、と言って、ご相談にいらっしゃる方も少なくはないのです。
離婚自体が、回避できない事実になってしまっていても、日本とは、離婚制度が異なるこの国フランスで、自分に不利にならないように、または、自分の権利を最大限に守れるように手続きを踏むことは非常に大切なことですので、今回の記事で、できるだけ分かり易いように、ご説明したいと思います。
離婚の理由
気になる離婚の理由です。日本とフランスでは、今まで扱ってきた経験から、離婚の理由で日仏の差はあまりないと感じています。経験上のベスト4は以下の通りです。
1. 同意による離婚 (性格不一致)
2. ハラスメント、暴力、不貞
3. 突然片方が、離婚を要求
4、 別居が既に何年間か続いている
2 AVOCATは沢山いるが、どうやって選ぶ?
日本の弁護士数は、4万3千人ほどに対して、フランスの弁護士数は、7万人ほどです。日本の人口は約1億2600万人、フランスの人口は6700万人ですから、フランスの方が人口に対して2倍近くの弁護士がいることになります。
日本での90パーセントの離婚は離婚届という形で終わるため、弁護士は必要ありません。フランスでは、協議離婚であっても、裁判離婚であっても、夫婦の双方が弁護士を立てるのが義務です。従って、まず、弁護士を探すのが第一歩となります。しかし、弁護士は多いのですが、どのように選ぶのかという、最初の難関にぶつかります。イエローページで探したりするのは避けた方が良いでしょう。いくつか、アドバイスを以下にリストアップしました。
1) まず、裁判離婚の場合は、管轄の問題あり。裁判所には地域別の管轄があり、弁護士は、管轄内の弁護士とあるが、他の管轄の裁判所に属する弁護士に依頼することも可能です。但し、管轄内の弁護士を窓口弁護士として立てる必要があります(窓口弁護士に支払う費用発生)。
協議離婚の場合は、裁判所を通さないので、管轄の問題はないのでどの管轄の弁護士でも可能です。
2) 弁護士は医者と違って、弁護士資格を取得する際に専門分野などない。専門分野は、経験の積み重ねによるため、まず、家庭法を専門としている弁護士である必要があります。
3) コミュニケーションが取れるかどうかは、弁護してもらう立場で、非常に大切です。まず、きちんと話を聞いてくれる弁護士かを確かめる必要があります。また、法律用語などでフランス語に自信がない場合、日本語ができる弁護士に相談することをお勧めします。(日本領事館のサイトにリスト掲載)よく耳にするのは、『わかったつもりで、署名してしまい、離婚成立してから、自分の思ってた結果と違う』『弁護士が勝手に話を決めてしまった』など。理解していない状況で、離婚裁判が進まないように、しっかりコミュニケーションを取れる弁護士を選ぶ必要があります。
3 国選弁護士の利点と難点
Aide Juridictionnelleと言って、収入が少ない人を対象とした、フランス国から弁護士の援助を得られる制度があります。
収入、扶養家族の人数によって、無料、または、援助金が受けられます。
申請は、管轄の裁判所に行けば、受付で申請用紙を入手できます。オンラインで申請できる裁判所もあります。国選弁護士はリストから選ぶことになります。
利点は、弁護士費用の無料、または援助金が出ること。
難点は、多くのケースで、『ほとんど、話を聞いてくれなかった』『連絡が取れない』『勝手に、手続きが進んでしまっていた』などの不満を多く聞きます。何故、このような結果になるかというと、国選弁護士というのは、顧客の少ない弁護士や、新人弁護士が収入を得るために行い、このタイプの弁護士は何十件もの国選案件を扱っているのです。一案件に国から弁護士に支払われる金額は、300ユーロとわずか。離婚案件となると、時間がかかるため、もちろん、一つ一つの案件に時間と労力を使う訳にはいかないというのが現状です。
従って、離婚案件で、財産分与、一時補償金(Prestation compensatoire)、お子さんの監護権、養育費などで争いがある場合は、しっかり弁護をしてくれる弁護士を選んで、勝ち取れる権利は、勝ち取って守ることが、弁護士費用を節約するより大切になってきます。
国選弁護士を決める場合は、国選の受理とともに何人かの弁護士リストが送られてくるので、会って話しをし、話を聞いていくれる弁護士を選ぶことをお勧めします。
4 オンラインでできる離婚はどうか?
よく、『Divorcer à partir de 300 Euros』とのキャッチコピーを掲げている弁護士サイトがあります。離婚で全く問題を抱えていない夫婦の場合は、これでも良いと思います。ただし、上記3、と同じ問題で、全く話は聞きてくれません。弁護士に実際に会わずに、秘書の方から必要リストを送られてきて、勝手に協議書が作成されて、よくわかっていないうちに署名に行く形となります。
また、『300ユーロから』とか書いてあったとしても、電話、メールするごとに料金は上がって行くので、このタイプでの離婚は、全く問題がない方にのみ、お勧めできるものです。
5 弁護士の費用は いくら?
弁護士の報酬は、『高い』というのが一般の方の考えられることでしょう。
弁護士は自由業のため、報酬の設定は自由であって、それぞれの弁護士によって異なります。
料金設定は、パッケージ制と時間制があります。どちらにしても、案件依頼の際に、必ず、Convention d’honoraireといって、弁護士報酬契約書を締結するのが義務となっています。この中で、成功報酬の設定、実費などの支払い、追加料金発生などの、条項を確認した上で、署名することが大切になってきます。
6 離婚が成立するまで、どのくらい時間がかかる?
協議離婚(divorce par consentement mutuel) と裁判離婚 (divorce contentieux)と、二つのタイプの離婚手続きがあります。
協議離婚は、2017年1月からフランスに導入された、裁判所を通さずに、弁護士が離婚協議内容を、協議後、協議書にまとめ、離婚する夫婦とそれぞれの弁護士が、協議書に署名をし、公証人(Notaire)が、離婚を登録することによって、離婚が成立します。この場合は、協議内容(財産分与、一時補償金、お子さんに関する親権、監護権、面会権、養育費)全てを協議します。最短なら、1ヶ月で離婚は成立しますが、ほとんどのケースにおいて、協議は、夫婦間、または、弁護士を通じて行われるため、離婚協議内容全てを決めるのに、経験上、平均6ヶ月はかかると言えます。急いでいない場合、3、4年かかるケースもあります。
裁判離婚の方は、日本と同じく、まず、離婚申請後、調停(Audience)が行われます。調停では、双方の離婚同意があるか、また、離婚裁判中の、別居や生活費、お子さんに関わる事項が、仮判決として出されます。
仮判決後、本裁判なり、離婚条件内容を、裁判所に、弁護士が意見書(Conclusions)を相手の弁護士と交換して、裁判官が判決を下す形となります。
フランスでは、裁判所が地域別に分かれていて、合計164の大審裁判所があり、混み合いの程度が異なります。
ちなみに、離婚裁判は、離婚する夫婦の住んでいる場所、もしくは、離婚申請を出す相手の住所管轄の裁判所で行われます。
パリ裁判所において、離婚の一審の判決が出るまで、現在、おおよそ1年です。控訴となると、さらに、1年半、2年かかります。
地方とならば、裁判所によっては、1年より早く離婚が成立するようです。
ひどく時間がかかるのは、Bobigny、Créteil、Evryで、一審だけで1年半から2年かかります。
最後に、裁判離婚は、過去のことを根掘り葉掘りと、相手の悪口の言い争いになることがほとんどで、精神的にも辛い思いをするため、回避できるのであれば、少し時間をかけてでも、お互いが納得しあって成立される、協議離婚をお勧します。
次回
フランスの離婚はなぜもめる?
ハーグ条約と、日本バッシング問題。
財産と夫婦財産法について(共同財産制か、別財産制、どちらが適応されるか)
被相続人の財産を定めるために、既婚者であれば、まず夫婦財産制(régime matrimonial) をチェックする必要がある。
今年になって、海外の口座を申請していなかったことにより、フランス税務署からの口座一つに対して、1500ユーロの罰金が課されるケースが増えている。そして、過去4に遡って罰金が課されるため、要注意。