在仏日本人会、「相続」についてのセミナー 2023年5月12日(オンライン)
財産と夫婦財産法について(共同財産制か、別財産制、どちらが適応されるか)
被相続人の財産を定めるために、既婚者であれば、まず夫婦財産制(régime matrimonial) をチェックする必要がある。
財産と夫婦財産法について(共同財産制か、別財産制、どちらが適応されるか)
被相続人の財産を定めるために、既婚者であれば、まず夫婦財産制(régime matrimonial) をチェックする必要がある。
フランスの法定財産制は原則、夫婦共有財産制(la communauté réduite aux acquêts)。
共有財産とされるのは原則として結婚形成された財産で、相続や贈与によって得た財産は除かれる。結婚後形成された財産は、不動産、貯金、株、車、高額の家具などは、原則、夫婦それぞれ50/50とされる。
但し、結婚時、または婚姻後、結婚契約(contrat de mariage)を締結し、夫婦財産制度を、別財産制(la séparation de biens)、または、夫婦包括財産制(la communauté universelle) への変更が可能。結婚契約は、公証人のところで、締結する。
la séparation de biens (夫婦別財産制) ー 結婚後、収入などで形成した財産は、それぞれの財産。共同名義で不動産を購入していれば、その際に締結する不動産所持率はその際に決めた割合の不動産所持となる。
la communauté universelle(包括財産制)ー 夫婦で結婚前後、関係なく、夫婦共同財産に入る財産を決める制度。
注意点。
フランス以外の国で婚姻し、その後1年以上その国に住んだ場合で、結婚契約を結んでいない場合は、その国の夫婦財産制が、適応される。(基準は婚姻後直後に一番長く住んだ国。)日本の法定制度は夫婦別産制。
但し、婚姻中、10年以上フランスに定住した場合は、フランス法(つまり共同財産制)が適応される。
■相続において、適応される法律は、日本か、フランスか?
課税はどの国となるか?
日本とフランスでは、適応法、課税対象の解釈が異なる。
フランスにおいて、日仏に跨がった相続の場合でフランスに相続対象財産がある場合、まず、被相続人の税の居住地(résidence fiscale)を定める必要がある。
過去10年間に6年以上、フランスに居住している場合は、フランスの居住者と認められる。必ずしも、死亡した国の法律が適応されるわけではない。決める基準は、死亡時の居住地と、相続財産がある国。
よくあるケース例
全財産に対してフランス法が適応され、フランスの税金が課税される。
日本法が適応されるが、フランスにある相続財産に関しては、フランスの課税とな る。この場合、日本在住の相続人は、全財産を合算し納税する義務が発生するが、 『外国税額控除』が適応され、二重課税は課されないこととなっている。
■遺言書の有効性について
遺言は、フランス法においては、自筆遺言(testament olographe) 、公正証書遺言(testament authentique)がある。亡くなるまでの間に変更や撤回が可能。
有効性があるための条件。
自筆遺言は、以下の3つの有効要件を備える必要があります。
公正証書遺言は、公証人の前で作成する遺言書。
注意点。 遺言状があっても、法定相続人(生存配偶者、子供のみ)が『遺留分』を請求する権利がある。
■フランス法による法廷相続人とは (遺言書がなかった場合)
1. 第一順位
子(子が死亡している場合は孫、孫が死亡している場合はひ孫、・・・)
2. 第二順位
親及び兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合はその子、その子が死亡している場合はその孫、・・・)
親1人につき1/4の相続分、残りを兄弟姉妹が等分で相続する
3. 第三順位
両親以外の尊属
父側尊属血族と母側尊属血族が1/2ずつ相続する。
それぞれの尊属血族のうち、もっとも近い親等の者が相続する(同じ親等の者が複数いる場合は等分する。)
4. 傍系血族
叔父、叔母、従兄弟姉妹
1. 被相続人に子がいた場合
生存配偶者は1/4 (遺産全体の使用権 usufruit)、子が残りを相続する。
2. 被相続人に子がおらず、親がいた場合
親両親1人につき1/4の相続分、残りを生存配偶者が全て相続する
3. 被相続人に子も、親もいなかった場合
生存配偶者が全てを相続する
* 不動産を所有していて死亡まで夫婦で住んでいた場合、、生存配偶者は死亡するまで、住む権利がある(droit d’habitation viager)。
*PACSのパートナーには、法定相続権は与えられていないが、遺言書があれば、生存配偶者と同じ扱いとなる。
■フランス相続税について
控除金 (abattement) について。
控除金額を差し引いた後のフランス相続税率(子供達・孫達・父・母の場合)
適用レート |
税率(%) |
8,072€以下 |
5% |
8,072€〜12,109€ |
10% |
12,109€〜15,932€ |
15% |
15,932€〜552,324€ |
20% |
552,324€〜902,838€ |
30% |
902,838€〜1,805,677€ |
40% |
1,805,677€以上 |
45% |
フランス相続税率(兄弟姉妹の場合)
適用レート |
税率 |
24,430€未満 |
35% |
24,430€以上 |
45% |
■フランスでの相続の手続きの流れについて
5000ユーロ以上の相続金額がある場合は、必ず公証人(Notaire)が相続手続きを行い、公知証明(acte de notoriété)を作成し、被相続人死亡後6ヶ月以内に申請する必要がある。相続人が海外にいる場合は、1年以内。
公証人は、基本はどの公証人でも良いが、国際性のある相続を行なっている公証人選ぶことは、強く勧める。
■ 日本で受け取った相続、収入のフランスへの送金の際の留意点と、二重課税の問題
日本で、収入、相続を受けた場合、日本で税金を納めていても、居住がフランスであれば、フランス税務所に申告する義務が発生する。
La déclaration n°2047 の用紙を使って、申請する。
日本でも、フランスでも国内の取り決めによって、二重課税はされないことになっているが、それぞれの国の課税率が異なることによる、差額に対して課税されることはある。
■最後に、日本の口座所持をフランス税務局へ申請する義務について
フランス国外に所持する銀行口座は、フランス税務局へ申請する義務があり、この1、2年、この義務を怠っていて、フランス税務局から罰金を課されるケースが多くなっている。
La déclaration n°3916 の用紙を使って、申請する
罰金は1年間、1口座に対して1500ユーロ課され、最大4年まで遡るので要注意(つまり6000ユーロ)。
まだ申請をされていな方で、今年から自己申告をされる場合は、罰金は課されないようだが今後、厳しくなる可能性もある。
以上
岩村由木弁護士プロフィール
在仏25年の日本人弁護士。日仏、両方の離婚、相続に関する両方の国の法律を熟知し、日仏、または日日など、国際性が高く複雑な離婚、相続などの案件において、適切なアドバイスを提供。また、フランス企業ルノーの法務部で15年勤務していたため、労働法、知的財産法、契約書一般のアドバイスも行う。
米ヴァージニア州大学国際法学部、パリ第10大学国際·欧州法修士、グルノーブル大学知的財産法修士、仏パリ弁護士資格取得
財産と夫婦財産法について(共同財産制か、別財産制、どちらが適応されるか)
被相続人の財産を定めるために、既婚者であれば、まず夫婦財産制(régime matrimonial) をチェックする必要がある。
今年になって、海外の口座を申請していなかったことにより、フランス税務署からの口座一つに対して、1500ユーロの罰金が課されるケースが増えている。そして、過去4に遡って罰金が課されるため、要注意。